「最近いびきみたいな呼吸をするな…」「よく耳をかゆがっているかも…」
それはネコちゃんが中耳ポリープに悩まされているサインかもしれません。この病気は若いネコちゃんで多く見られ、放置するとさまざまな症状を引き起こしてしまうことがあります。
中耳ポリープってどんな病気?
中耳ポリープは、ネコちゃんの中耳や耳の奥にある耳管から発生する良性の腫瘍です。腫瘍といっても、ほとんどが炎症によってできる「炎症性ポリープ」と呼ばれるもので、平均1.5歳の若いネコちゃんに多く見られるのが特徴です。
このポリープが大きくなると、さまざまな症状を引き起こします。
中耳は、耳管を介して呼吸器系に、また神経構造を介して平衡感覚や顔面機能に、それぞれに密接に関連しています。そのため、ポリープの発生源と増殖方向によっては、耳の症状だけでなく呼吸器症状や神経学的症状が発現する可能性があります。
・耳の症状
頭を振る、耳をかく、耳から嫌な匂いがする、耳垢が出る、首が傾く(斜頸)
・呼吸の症状
いびき様・鼻が詰まるような呼吸音、鼻水、くしゃみ、呼吸困難(重度の場合)
・神経の症状
目が揺れる(眼振)、ふらつく、顔が麻痺する
慢性的な呼吸器症状が一般的な治療に反応しない場合や、神経学的症状を示す場合などには、中耳ポリープを鑑別診断に含める必要があるでしょう。
中耳ポリープ診断のための検査
中耳ポリープは耳の奥にできるため、外から見ただけでは分かりません。診断のための検査には次のものが挙げられます。
・初期検査(耳鏡検査)
耳鏡を用いた耳の中の観察です。外耳道のポリープは確認できますが、中耳のような深部の構造を詳細に観察するには限界があります。
・内視鏡検査
ビデオオトスコープなどの耳専用の内視鏡を使って、耳の奥や鼓膜、鼻咽頭(鼻の奥)を拡大して直接確認します。これにより、ポリープの有無や発生場所を特定しやすくなります。
当院ではビデオオトスコープを導入し、耳の内部構造を鮮明な画像で把握することで、中耳炎やポリープに対してより正確な診断・治療を実施できるよう活用しています。
・高度画像診断
CTやMRIといった高度な画像診断検査で、ポリープの正確な位置、範囲、および鼓室内の貯留物の有無を詳細に把握し、外科的治療における必要な情報を得ます。
再発と合併症のリスクが低い最新治療「内視鏡下手術」
猫の中耳ポリープの治療は外科手術が最も有効です。しかし手術方法によって、術後の再発率や合併症のリスクが大きく変わります。
ここでは、主な3つの手術方法とその特徴をご紹介します。
- 従来の方法:盲目的な牽引摘出術
ポリープの根本や耳の奥を視覚的に確認できない状態で、ポリープを引っ張って抜き取る方法です。
再発率:50%前後と非常に高いです。ポリープの根元が残ってしまうことが多いためです。
神経合併症:約40%にホルネル症候群などの神経症状が見られることがあります(多くの場合、数週間以内に自然に消失する一時的なものです)。
- 根治を目指す:VBO(腹側鼓室胞骨切り術)
首の下を切開し、中耳の骨を直接開けてポリープの根元や中耳の炎症組織を徹底的に取り除く方法です。
再発率:5%前後と非常に低いです。
神経合併症:約75%と、ホルネル症候群や顔面神経麻痺、前庭障害といった神経症状のリスクが比較的高いです。体への負担も大きめです。
- 最新の選択肢:内視鏡下手術(ビデオオトスコープを用いた牽引術:PTTなど)
近年注目されている最新のアプローチです。耳専用の硬性内視鏡(ビデオオトスコープ)を使い、耳の奥や鼓膜の向こう側をモニターで拡大して確認しながら、ポリープを慎重に摘出します。
再発率:約10~15%と、VBOに近い低さを実現しています。
神経合併症:約8%と、VBOに比べて大幅にリスクが低いです。
この内視鏡下手術は、低侵襲(体への負担が少ない)で、高い根治性と低い合併症リスクが特長です。病変を直接確認できるため、より安全かつ正確な手術が可能になります。
早期発見のために
耳をよくかく、頭をよく振るようになったなどは耳の病気のサインの可能性が高いです。また、いびきのような呼吸音が大きくなるなど呼吸の音の変化も要注意です。
ネコちゃんに気になる症状があればお気軽にご相談ください。
