どんな病気か?
軟骨異栄養性犬種といって軟骨の変性が若齢から始まってしまう ダックスフンド、ビーグル、ウェルシュコーギー、ペキニーズ等に好発します。 椎間板髄核(椎間板の中心にあるゼリー状の物質)は本来、 背骨にかかる衝撃を吸収し、負荷を軽減させる役割を担います。 発症する前の段階から上記の犬種はゼリーの水分が抜け、石灰化し硬い椎間板になっているため、 日常の何気ない運動であっても椎間板が衝撃を吸収できずに急に中身が飛び出し、 脊髄を震盪/圧迫/損傷し発症します。
症状
急性の後肢麻痺/不全麻痺、背部痛、排尿障害等が認められます。
診断
①身体検査(神経学的検査)
病変の位置決め、重症度を判定します。
発症直後の重症度評価は極めて重要です。
経過観察がまだ許容されるのか、 積極的な精査・治療に進むべきなのか を身体検査を終えた時点で判断する必要があります。
症状の程度は下記の5段階に分類します。グレード4以上の麻痺は緊急手術が推奨されます。
グレード1:背部痛のみ、不全麻痺無し
グレード2:両後肢不全麻痺、ふらつくが起立の保持、歩行は可能
グレード3:両後肢麻痺、足はかろうじて動くが起立の保持、歩行は困難
グレード4:両後肢完全麻痺、痛みを感じる事はできる。自力排尿困難
グレード5:両後肢完全麻痺、痛みを感じる事もできない。自力排尿不可
②画像検査
椎間板ヘルニアの診断は脊髄造影やMRI等の全身麻酔を伴う検査が必要となります。 「後ろ足の動きがおかしい」症状は原因が椎間板ヘルニアとは限りませんので、 それらを疑い全身麻酔を伴う画像検査に入る前に、鑑別すべき疾患を除外する必要があります。
治療法( 外科)
①小範囲椎弓切除術(Mini-hemilaminectomy)
副突起および椎弓の一部を切除し、脊柱管内にアプローチする方法です。視野が狭くやや難易度の高い手技ですが、棘突起、関節突起を温存する事で術後の椎体の不安定を最小限に留めます。
②片側椎弓切除術 (Hemilaminectomy)
関節突起、椎弓の一部を切除し、脊柱管内にアプローチする方法です。椎間板ヘルニアの手術で最も多く実施されている手術法です。
③予防的造窓術(Prophylactic Fenestration)
ハンセンI型椎間板ヘルニアの手術時に、再発予防を目的として実施する術式です。T11~L4椎体間の椎間板繊維輪に小切開を加え、椎間板髄核を除去します。椎間板ヘルニアの手術時に同時に実施し、再発率を軽減させる事が可能です。
④経皮的レーザー椎間板減圧術
(PLDD:percutaneous laser disc decompression)
ハンセン2型椎間板ヘルニアに対する治療効果が期待されている術式ですが、 胸腰部椎間板ヘルニアの再発率軽減を狙った治療法としても期待されています。
⑤硬膜切開術(Durotomy)
脊髄損傷を肉眼的に評価する事が本来の目的の手技ですが、進行性脊髄軟化症への移行が疑われる症例にたいし実施する事で死亡率を軽減させる事が期待できます。 低グレードの患者に対し実施すると回復率を低下させる恐れがあるため、手技の実施は慎重に判断する必要があります。
治療法(内科)
①安静(ケージレスト)
症状の軽い症例に対し適応します。発症から少なくとも4週間は厳密な運動制限が必要となります。安静は改善させるための治療ではなく、更なる悪化を最小限に食い止める方法です。脊髄への圧迫が消えてなくなるわけではないので不全麻痺が残る症例も多く見受けられます。動物は絶対安静が難しいため、椎間板ヘルニアが再発、重傷化する危険性があります。
②装具
安静期間中の使用を推奨しております。
特に改善傾向にあり動きが活発になってきた頃の使用をお勧めしております。
③薬物療法
動物の椎間板ヘルニアに対して治療効果が明らかになった薬はありません。
当院では高用量プレドニゾロンの投与は実施しておりません。
プレドニゾロン以外の鎮痛剤、ビタミン剤、好中球エラスターゼ阻害剤等を使用する事があります。
④リハビリテーション
安静期間中の積極的(自己流)なリハビリテーションは推奨されません。
腰の痛がる子、椎間板が破れ椎体の不安定が想定される子を無理に動かす事でヘルニアが重症化する場合があるからです。
リハビリテーションのメニューは患者の状態によって大きく異なりますので、個別に対応しております。